名古屋地方裁判所 平成5年(ワ)4324号 判決 2000年7月12日
原告
甲野花子
右訴訟代理人弁護士
福井悦子
被告
東京海上火災保険株式会社
右代表者代表取締役
丸茂晴男
右訴訟代理人弁護士
田中登
同
住田正夫
同
中野俊彦
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
被告は、原告に対し、二三〇〇万円及びこれに対する平成五年一二月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、原告が被告に対し、原被告間で締結した自家用自動車総合保険契約の対象となった車両を乙川一郎(以下「乙川」という。)に貸したところ、乙川が右車両を海に転落させ、右車両は全損の状態となったとして、二三〇〇万円の車両保険の損害保険金及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成五年一二月一六日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
一 争いのない事実等
1 原告と親密な関係にあった丙山二郎(以下「丙山」という。)は、平成四年六月二五日、日本火災海上保険株式会社との間で<車両番号略>メルセデスベンツ(以下「本件車両」という。)を被保険自動車として、対人賠償、対物賠償のみを目的とする自動車保険契約(以下「別件保険契約」という。)を締結した(争いがない。)。
2 原告は、平成四年一一月二八日、被告との間で、本件車両を被保険自動車とし、車両保険の保険金額を二三〇〇万円、保険期間を平成四年一一月三〇日から一年間とする自家用自動車総合保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。この際、原告は、被告に対し、右1の事実を告知しなかった(争いがない。)。
3 乙川は、平成四年一二月二九日、早朝、愛知県知多郡南知多町豊浜港(以下「豊浜港」という。)において、本件車両を海に転落させた(以下右転落事故を「本件事故」という。争いがない。)。
4 被告は、原告に対し、平成五年六月一七日ころ、原告が本件保険契約締結に当たり、別件保険契約について告知しなかったことを理由に本件保険契約を解除する旨の意思表示をした(甲五)。
二 争点
1 車両保険に基づき保険金を請求できるのは、被保険者(被保険自動車の所有者)であるところ、本件車両の所有者は、原告であったか。
2(一) 保険会社は、保険契約者、被保険者または保険金受取人の故意により生じた損害については保険金支払義務を免れるところ、右1において、原告が本件車両の所有者であった場合、本件事故は、乙川が、保険契約者兼被保険者である原告と共謀のうえ故意に引き起こしたものであり、したがって、被告は本件保険金請求の支払を免責されるか。
(二) 右(一)の本件事故についての原告と乙川の共謀が認められない場合でも、原告は、親密な関係にあった丙山の指示に基づいて本件保険契約を締結したものであり、また、本件事故は、乙川が丙山と共謀の上、原告を通じて保険金を取得する目的で故意に引き起こしたものであるから、被告は本件保険金請求に対する支払を免責されるか。
3 被保険自動車を同一とする他の自動車保険契約を締結している場合、保険契約を締結しようとする者は、右事実を保険会社に告知する義務を負っており、保険契約者が故意または重過失により右事実を告知しなかった場合には、保険会社は右保険契約を解除できるところ、本件で原告が、別件保険契約の事実を被告に告知しなかったことにつき、故意または重過失があったか。また、本件では、別件保険契約の内容は対人賠償、対物賠償のみを対象としており、本件事故で問題となっているのは、車両保険であるが、この場合にも被告は、右告知義務違反により本件保険契約を解除できるか。
第三 当裁判所の判断
一 まず、本件事故の起きた経過について検討する。
1 原告は、本件事故は概ね次のような経過で発生したもので、乙川が過失により引き起こしたものである旨主張し、証拠(甲二三、乙二八、証人乙川、同丙山、原告本人)中には右主張に沿う部分がある。
(一) 丙山は、ティーアップこと坪井一仁(以下「坪井」という。)と交渉の上、平成四年六月ころ、本件車両を購入した。丙山と原告は、後記二1認定のとおり、愛人関係にあり、丙山が主として本件車両を使用していたが、原告もこれを使用することがあった。
(二) 平成四年一二月二九日の午前一時半過ぎ、原告が本件車両に乗って名古屋市中区新栄所在のマンション・ロジェ千種(以下「ロジェ千種」という。)前の路上で丙山の帰りを待っていると、乙川と丙山が、丙山が代表取締役となって設立した有限会社ウィナーコーポレーション(以下「本件会社」という。)の所有する自動車で帰宅してきた。当時、乙川は、丙山と一緒にロジェ千種に住んでいたが、丙山と原告がロジェ千種に泊まろうとしたことが分かったので、気を遣ってその場を離れようとしたところ、原告及び丙山は、乙川に対し、本件車両を貸し与えた。
(三) 乙川は、時間をつぶす目的で知多半島方面にドライブをし、豊浜港に到着し、豊浜港の海沿いの道を走って釣り客の様子を見た後、車を止めて仮眠をした。
(四) 乙川は、午前五時ころ目を覚まし、再び豊浜港の海沿いの道を走っている際、火のついた煙草をシートの間に落としてしまい、そちらに気をとられているすきに別紙図面のB1ないしB2点からX1ないしX2点に向けて進行し、X1ないしX2点から本件車両ごと海中に転落してしまった。
なお、証人乙川の証言中には、右転落の際のスピードは、徐行でも高速でもない普通の速度であった旨の部分がある。
(五) 右転落の際、本件車両の窓はすべて閉まっていたが、本件車両が海中に没する直前に電動式の窓が開いたため、乙川は、その窓から脱出し、岸に上がった。その後、乙川は、近くにいた人が呼んだ救急車で知多厚生病院に運ばれ、診療を受けたが、けがは、左手に負った擦過傷のみであった。
2 そこで、右主張及び乙川の証言の信憑性につき順次検討する。
(一)(1) 本件車両の転落の経路につき検討するに、証拠(乙二、三、一六、二二、二三、証人鈴木勝美(以下「鈴木」という。)、同池田光年(以下「池田」という。))によれば、本件事故発生後、平成四年一二月二九日午後一時過ぎに本件車両が発見された位置は、別紙図面のY点であり、本件車両は、前方を南側に向けて岸壁と垂直の方向に沈んでいたこと、別紙図面のX3付近の岸壁にコンクリートが削れたような痕跡があったこと、Y点付近では海水の流れが速くないことが認められ、以上の事実を総合すると、本件車両は、別紙図面のB3点からX3点に向かって進行し、そのまま海中に転落したものと認められる。乙第四号証によれば、証人乙川の証言のとおり、本件車両がX1ないしX2点から転落して本件車両が発見されたY点まで移動したとすると、本件車両は、時速八五キロメートルでXlないしX2点から空中に飛び出さなければならないことに照らすと、この点に関する乙川証言は採用できない。
(2) 証人鈴木の証言によれば、本件事故当日、X3点付近においては、岸壁から一四、五メートル離れたあたりに、岸壁に平行に、車両が進入できないようにフェンスが設置してあったことが認められる。
(3) そうすると、右(1)の事実を前提にする限り、X3点から岸壁に対して垂直に車両が転落するまでに、車両が走ることができる距離は最大限一四、五メートルしかないから、乙川の証言のように、海沿いの道を走っている最中に前方不注視のまま直進し、誤って岸壁から転落するといった事故の態様はあり得ないことになり、この点に関する乙川の証言は、全く信用できないと言わざるを得ない。
(二) 本件車両が転落したときの速度について検討するに、証拠(証人鈴木、同池田、乙四、二二、二三)によれば、本件車両は、車両の先端部が岸壁から一〇メートル程度、後部が岸壁から五ないし六メートル程度の位置に沈んでいたものと認められるところ、右数値から計算すると、本件車両は、時速9.5キロメートルないし一五キロメートルの速度でX3点から空中に飛び出したことになること、本件車両の車体底部には前輪部の後ろの二箇所に擦れたような痕跡があり、X3点付近の岸壁にはコンクリートが削れたような痕跡があったことが認められるところ、乙第四号証によれば、右のような痕跡は、車両が二〇キロメートルを超えるスピードで空中に飛び出した場合にはできないものと認められること、以上の事実を総合すれば、本件車両は、X3点から時速9.5キロメートルないし一五キロメートルの速度で空中に飛び出したことを認めることができる。
そうすると、この点に関する証人乙川の証言(転落時のスピードは徐行でもなく、高速でもないスピードであった旨のもの)も採用できない。
(三) 乙川が本件車両の電動式の窓を開けて脱出したという点について検討するに、乙川は、海に転落したことに気付いたのは転落の瞬間であり、本件車両が海面に浮いていた時間はほとんどなく、直ちに水没した旨、最初ドアを開けようとしたが開かなかったので、電動式の窓を開けたところ、水が勢いよく入ってきた旨証言している。そうすると、本件車両の落下から水没までの時間は短く、しかも、最初にドアを開けようとし、次に窓を開けたというのであるから、窓を開けたときには、本件車両は既に水没していたことになると考えられるところ、証拠(乙4、証人池田)によれば、車両が水没した場合には、電動式の窓は配線がショートするために開かなくなる可能性が高いこと、水没した場合には、水圧のため、ドアと同様窓も開かなくなるものと認められることに照らすと、水中で電動式の窓が開いたため、そこから脱出した旨の乙川の供述も採用できない。
(四) 乙川が本件事故により、左手に擦過傷を負ったほかけがをしなかったという点について検討するに、証拠(乙二、四、一六)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故の際、本件車両は、右(二)認定のとおり、低速で空中に飛び出し、車両の前部を下にして水面に衝突し、右衝撃で本件車両のフロントガラスには水圧で押しつぶされてひびが入っていることが認められるところ、乙川の証言によれば、乙川は本件事故の際、シートベルトはしていなかったのであるから、ハンドルで胸部を強打し、相当程度のけがをする可能性が極めて高いと考えられるのに、乙第二二号証によれば、乙川は、救急隊員に対し、ハンドルで胸部を打ったと訴えたことはなく、医師による診断でも擦過傷以外の外傷はなかったことが認められるから、乙川が本件車両に乗って海中に転落したことについては重大な疑いがある。
(五) 乙川が本件車両を丙山ないし原告から借り、本件事故現場に向かった経緯について検討すると、原告は、当時ロジェ千種にて丙山と同居していた乙川が原告と丙山に気を遣って本件車両を借り、時間をつぶすために知多半島方面に向かった旨主張するが、原告と丙山に気を遣ったからといって、真冬の深夜に自動車を借り、しかも、時間をつぶす目的で一人名古屋から約一時間かかる豊浜港までドライブをし、そこで仮眠をするというのは不自然である。
(六) 以上の事実を総合すると、前記1の事実に沿う乙川の証言は到底採用できず、乙川は、本件事故につき、虚偽の事実を述べたものであり、実際には、乙川は、B3点からX3点に向かって外部から本件車両を動かして、故意に本件車両を海中に転落させ、自身は後から海中に飛び込む等の手段で、あたかも本件車両を運転中に誤って海に転落したかのように偽装したものと認めるのが相当であり、右認定を覆すに足りる証拠はない。
3 次に、右2(六)の乙川による本件事故の偽装工作に丙山及び原告が関与していたか否かについて検討する。当事者間に争いのない事実、証拠(甲一〇の一ないし四、一一、一二、一七の一ないし三二、一八、二三、証人丙山、同乙川、原告本人、調査嘱託)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(一) 丙山は、本件車両の購入代金の大部分を支払っているにもかかわらず、本件車両を原告名義とすること、原告名義で本件保険契約を締結することを依頼し、原告はこれに応じて、本件保険契約を締結した。丙山は、その理由について、無免許であることを挙げているが、原告と知り合ってから他に三ないし四台の自動車を購入したにもかかわらず、原告に右のような依頼をしたのは本件車両についてが初めてであった。
(二) 本件事故後、丙山は、原告に対し、被告の調査に対し、原告が代金を自分で払った旨説明するように指示し、原告は右指示に従って被告に回答した。
(三) 丙山は、平成四年六月に坪井から本件車両を購入し、同月二五日、対人対物賠償のみを目的とした別件保険契約を締結しており、これに車両保険を追加するのであれば、別件保険契約の内容の変更を行えば、新たに車両保険を含む契約を締結するのに比べて保険料も割安になるにもかかわらず、原告名義で本件保険契約を締結した。また、本件保険契約締結に当たり別件保険契約について告知しなかった。
(四)(1) 乙川は、丙山と高校の同級生であり、本件事故の一ヶ月くらい前から、丙山の経営する本件会社の従業員として勤務すると共に、ロジェ千種において丙山と同居していた。
(2) 本件事故後も、丙山及び原告は、乙川に対し、損害賠償を請求する等、乙川の責任を厳しく追及はしなかった。
(3) 乙川は、本件事故後も一ヶ月程度は丙山と同居し、一〇ヶ月程度、本件会社に勤務し、事故前と同額の給料をもらっていた。一〇ヶ月後に本件会社を辞職したのは、丙山と仲違いをしたからではなく、乙川が結婚をしたからであった。
(五)(1) 本件保険の車両保険の保険金額は、二三〇〇万円であったところ、本件保険契約には車両価格協定保険特約が含まれているため、原告は、本件事故を理由として、保険金額全額である二三〇〇万円を取得し得る立場にあった。
もっとも、原告は、原告も丙山も右特約について知らず、車両の全損事故があった場合にも、事故当時の客観的な価格の限度(本件では一八〇〇万円程度)しか、取得できないものと信じていたから、本件事故を偽装する動機はなかった旨主張するが、丙山が右特約を知らなかったことについては、これを認めるに足りる証拠はない。
(2) 本件事故のあった平成四年一二月ころの本件車両の転売価格は、本体のみで一八〇〇万円程度であり、車両全体でもこれに約数十万円の中古のオプション部品の価値を付加した程度であった。
(3) したがって、原告は、本件事故により車両保険全額を受領すれば、実際に転売するより五〇〇万円近く多額の金額を受領することになる。
(4) 丙山は、平成四年六月、本件車両を二三七〇万円で購入するに当たり、小出厚生(以下「小出」という。)から二〇〇〇万円を借り、平成四年一一月から平成七年七月まで毎月数十万円から一〇〇万円余の金額を支払って完済した。
(六) 以上の事実を前提に判断すると、乙川が右2のとおり偽装工作を行った動機は、車両保険の保険金を取得すること以外には考えられず、そのためには、保険契約者、被保険者ないしその関係者と通謀したものと推認されるところ、右(四)(1)の事実によれば、乙川は、丙山の経営する本件会社の従業員であったから、丙山の意を受けて、偽装工作を行うことは十分考えられる状況にあり、現実に、右(四)(2)、(3)のとおり、乙川が本件事故を起こしたにもかかわらず、丙山は、乙川の責任を追及せず、そのまま親しい関係を続けていたこと、右(一)ないし(三)のとおり、丙山は、既に別件保険契約を締結済みであり、その契約内容の変更をすれば足りるところをあえて本件保険契約を自己名義ではなく、原告名義で締結し、本件車両の代金の真実の出損者は丙山であるのに、原告が出損したかのように仮装するよう原告に指示しているところ、これは、本件保険契約に基づく保険金請求をする際に被告に怪しまれないようにするための方策であったと考えられること、右(五)(3)(4)のとおり、本件事故により保険金を受領すれば、転売するのに比べて五〇〇万円近く多額の金員を受領することになり、しかも、小出に対する二〇〇〇万円近い借金も一括して返済できる状況にあったこと、したがって、詳細は不明であるが、丙山には、偽装工作を行って保険金を受領する動機が認められること、以上の事実を総合すれば、本件の偽装工作は、丙山の計画、指示で乙川が行ったものであり、丙山は、本件保険契約の名義人である原告を通じて保険金を受領する意思であったことを推認することができる。しかし、本件の偽装工作につき原告も通謀していたことについては、これを認めるに足りる証拠はない。
もっとも、原告は、丙山には本件の偽装工作を行う動機が乏しかったと主張し、前記(五)(4)のとおり、丙山は、小出から借りた二〇〇〇万円を平成四年一一月から平成七年七月までに分割返済したのであるから、経済的に特に困窮したわけではなかったこと、右(五)(4)のとおり、購入価格は二三七〇万円であり、本件事故により、二三〇〇万円の保険金を取得しても、右購入価格と比べれば、特に経済的な利益はないことが認められる。しかし、前記認定のとおり、本件事故当時の転売可能価格と保険金額の間に五〇〇万円近くの差がある以上、右のような事情があるからといって丙山の動機を否定することはできず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。
二 そこで、本件車両の所有関係について検討する。
1 当事者間に争いのない事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められ、証人丙山の証言中、右認定に反する部分は採用することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
(一) 原告は、ファッションヘルスに勤め、丙山は、パブの経営をしていたが、右両名は、平成二年ころ、知り合い、その半年後である平成二年末から平成三年初頭にかけて、ロジェ千種を借りて同棲するようになった(甲二三、原告本人、証人丙山)。
(二) 同棲後一年ほど経ったころ、原告と被告は仲違いをし、原告は、ロジェ千種を出て、名古屋市西区新道<番地略>所在のライオンズマンション浅間町南(以下「浅間町のマンション」という。)に転居した。その後、二人は仲直りをしたが、同棲を再開することはなく、互いに相手の住居を訪問する等して交際を続けた。原告は、浅間町のマンションにおいては、皿井某から自動車を借り、その自動車に乗っていた(甲二三、乙二九、原告本人、証人丙山)。
(三) 丙山は、自動車の愛好家であり、原告と知り合った後だけでも、自動車を三回ないし四回にわたって買い換えた。丙山は、ロジェ千種を駐車場付きで賃借しており、所有する自動車を右駐車場に駐車していた。右各自動車については、丙山が自己名義で、自己の資金で購入し、自動車保険にも自己名義で加入していた。原告は、丙山の同意を得て、右各自動車を自分の自動車のように使用していた。丙山は、平成二年ころ、交通違反が重なったため、自動車の運転免許を取り消され、その後は無免許で運転していた(甲二三、証人丙山、原告本人)。
(四) 丙山は、平成四年六月ころ、坪井から、本件車両を代金二三七〇万円で購入したが、右代金のうち、二〇〇〇万円は、小出から借り、約五〇万円を原告が出資し、残金は丙山が手持ち資金から支出した(甲一〇の一ないし四、一一、一九、証人丙山、原告本人)。
(五) 丙山は、平成四年六月二五日、本件車両について、それまで所有していた自動車についての日本火災海上保険株式会社との間の保険契約を継続する形で別件保険契約を締結した(争いがない。)。
(六) 丙山は、本件車両の購入に当たり、原告に対し、対外的に本件車両の所有名義人となること、代金は全額原告が支出したように仮装することを依頼したところ、原告は、本件車両の購入の過程には一切関与していなかったが、右依頼を承諾した。もっとも、原告と丙山との間では、本件車両の登録名義を現実に原告にするか否かについては話題にならなかった(甲二三、原告本人)。丙山は、坪井に対し、本件車両の登録名義の変更は留保するので、坪井の名義にしておくように依頼し、坪井は、右依頼に応じ、平成四年六月二五日、本件車両の登録名義を前所有者であった株式会社ジップトレーディングから坪井に変更した(甲九、証人丙山)。
(七) 丙山は、本件車両の購入後、本件車両をロジェ千種の駐車場に駐車していたが、原告も本件車両の鍵を所持し、丙山に断って、本件車両を運転していた。丙山と原告は、約八対二の割合で本件車両を使用していた(甲二三、原告本人)。
(八) 丙山は、平成四年一一月ころ、原告に対し、原告名義で自動車保険に加入することを依頼したところ、原告は、本件車両が目立つ自動車で、傷つけられることがあったこともあって、右依頼に応じ、平成四年一一月二八日、被告の代理人である加藤一徳(以下「加藤」という。)との間で本件保険契約を締結した。右契約に際し、原告及び丙山は、加藤に対し、名義変更前だが、本件車両の所有者は、原告となる旨告げた。原告は、加藤に対し、本件保険契約の保険料の第一回の分割金である三ヶ月分を支払った(甲二三、証人加藤、原告本人)。
(九) 原告は、本件事故後、丙山から、保険会社から問い合わせがあったら原告が本件車両を自己資金で購入した旨答えるように依頼され、保険会社からの照会に対し、右依頼のとおり虚偽の回答をした(甲二三、原告本人)。
(一〇) 丙山は、坪井に対し、平成五年七月ころ、本件車両を原告に売り渡し、右代金は原告から受け取った旨の書類の作成を依頼し、坪井はそのとおりの書類を作成した(甲二、三)。
2(一) 右認定事実を前提に、原告が本件車両の所有者と言えるか否かにつき検討するに、原告は、原告と丙山は、対外的に本件車両の名義を原告にすることを合意していたから、原告が所有者であり、仮にそうでないとしても、原告と丙山は、本件車両の購入当時、夫婦に準じる愛人関係にあったから、原告と被告が持分二分の一の割合で共有していたと主張し、原告本人尋問の結果及び証人丙山の証言中には、本件車両は愛人の関係にあった原告と丙山との二人のものであると考えていた旨の供述部分があるうえ、右1(六)のとおり、丙山が原告に対し、本件車両の所有名義人となってほしい旨要請し、原告がこれを承諾したこと、右1(四)のとおり、原告は、本件車両の代金の一部である約五〇万円を支払ったこと、右1(七)のとおり、原告は、本件車両の鍵を所持し、本件車両を二割方使用していたこと、右1(八)のとおり、本件保険契約の名義人となり、保険料を支払ったこと、以上の事実が認められる。
(二) しかし、右1(六)のとおり、本件車両を坪井から購入するに際しての交渉はすべて丙山が行っており、原告はこれに全く関与していないこと、右1(四)のとおり、丙山は本件車両の代金である二三七〇万円のうち約二三二〇万円を支出しており、原告の支出額はわずかに約五〇万円に過ぎないこと、右1(五)のとおり、丙山は、丙山が本件車両の所有者であることを前提に別件保険契約を締結していること、右1(六)のとおり、本件車両の登録名義は坪井の名義のままになっており、原告に登録名義は移転されていないこと、原告は、陳述書及び本人尋問において、本件車両を原告のみの所有物と考えたことはない旨、本件車両については自分にも権利があると考えているが、その権利というのは、代金の一部を負担しており、恋愛関係にあったから、自分にも運転する権利はあるのではないかという程度のものである旨、現実に本件車両の購入に際し、自分に登録名義が移転したか否かについては確認していない旨、本件請求が認められた場合には、保険金は、丙山が受領すべきものであると考えている旨、それぞれ供述していることに加え、前記一のとおり、丙山は、本件事故を偽装することにより保険金を取得しようとしていたところ、本件車両の所有名義を原告とし、本件保険契約を原告名義で締結した理由は、保険金請求をした際に保険会社から怪しまれることを防ぐために、本件保険契約の名義人である原告を通じて保険金を受領する意思であったからであること、以上の事実に照らすと、本件車両を坪井から買い受けたのは、丙山であり、原告は、丙山の言うがままに、本件車両の形式的な名義人となることを承諾し、本件保険契約を締結したに過ぎず、丙山と原告との間で本件車両の実質的な所有権を原告に帰属させる旨の合意があったことを認めることはできない。
そして、原告が鍵を所持して本件車両を使用していたことについては、購入資金のごく一部を負担し、丙山と愛人関係にあったことから、本件車両の所有者である丙山から本件車両の使用を許諾されていたに過ぎないと言うべきであり、前記(一)の各事実をもって、原告が本件車両を現実に所有するに至ったと認めることはできず、他に原告が本件車両を所有していたことを認めるに足りる証拠はない。
第四 結論
よって、その余の争点について判断するまでもなく原告の請求は理由がない。
(裁判官・後藤健)
別紙図面<省略>